Reason by Inferious





 それは数年前のとても寒い日のことでした。アーリグリフ王都ではもちろん、カルサアにすら雪が降っている、そんな日です。

 翌日に出陣を控え、訓練に励んでいた漆黒騎士団でしたが、この寒さは団員たちの士気をそぐ役目しか果たしていませんでした。なんといっても団長が、自分の執務室から出てこないので士気もなにもあったものではありませんが。





「今日は寒いですな、アルベル殿」

「ああ」

 そう部下に答えたアルベルは暖炉の火を強くしに行きました。毛布に包まっているように見えるのは目の錯覚などではありません。

 しかしこれが許されるのは彼がアーリグリフのアイドルだからということにほかなりません。まあ、こんな姿を疾風団長などには見せられませんが……。



「俺はカルサア育ちだから寒いのは嫌なんだ」

 あんな薄着で言うセリフではありません。

「シェルビー、兵も訓練になどなっていないだろう?」

「ええ、まったく」

 寒さに負けて、シーハーツにまで負けるわけには行きません。そう、団長はあることを提案しました。

「今日の夕食は鍋にしよう!」

 訓練の方法じゃないんかい!というツッコミはなしです。漆黒では団長の言葉に突っ込みを入れるものはいません。もしいたのなら、騎士団を除名されてしまいます。漆黒騎士団、それは別名アルベル団長親衛隊というのですから。もちろん非公式の名前です。団長は知りません。

「それはいい案ですね」

 寒い時に鍋は身体を温めるためにとてもいい料理です。アーリグリフではそうやって暖をとることもあります。しかし、

「一人一品食物を持ち寄り、大鍋で煮る。それを暗闇で食うっていうのはどうだ?」

「………」

 さすがのシェルビーも言葉が出てきません。

 それは俗に言う闇鍋……それをアイドルに突っ込むわけにはいきませんでした。

「ア、アルベル殿…その調理法方はどこで、その……」

「家でよく食っていた」

「は?」

「父さんが普通の鍋はおもしろくないからってな」

 この時、シェルビーは今までにないくらい元疾風団長を恨んだといいます。

「さあ!準備に取り掛かるぞ! 兵への伝達はお前に任せる。俺はおばちゃんに言ってくるからな!」

 毛布を椅子に置き去りにし、執務室を薄着で出て行く団長……もう誰にもとめることはできないでしょう。









 カルサア修練場の屋上に集まった団員は皆驚愕に打ちひしがれていました。団長主催の闇鍋大会(全員強制参加)の材料はどこで入手して来ればいいのか、ということに悩んでいたのです。

「言うまでもないが、グラナ丘陵にいるキノコは毒を持っているから却下だ」

「………シェルビー様…もうすでに狩ってきた奴が…」

 そう言われてみれば妙な色のキノコが屋上のすみに所狭しと置かれています。気味が悪いだけですね。

「仕方があるまい、全員、訓練も兼ねてグラナ湾とカルサア丘陵でモンスターを狩って来い!」

「「「「おおーっ!!」」」」

 根本的に間違っている気がしますが、雪のアーリグリフは本当に食糧難のようです。









 数時間後、食堂では大鍋(推定直径10メートル)がスタンバイされていました。ぐつぐつと沸騰している湯と、団員全員分の取り皿が置かれ、楽しそうに包丁を振るう人が2人いました。

「アルベル様!このチーズは丸ごとでいいんじゃないですか?」

「半分に切っとけ」

 その二人を遠くから見ているのは本来ここを仕切っているおばちゃん。楽しそうなのは団長と、おばちゃんの娘・マユです。

「闇鍋なんて久しぶりですね~vv」

「だろ?寒い日にはこれが一番だ」

 野菜(どこから取ってきたんだ?)を食べやすい大きさに切りかごに入れていくマユとアルベル、止める者がいないので暴走しているようにも見えます。

 そんな時、食堂に入ってくる人がいました。アルベル団長親衛隊のシェルビーです。

「アルベル殿!団員一同食材を入手してまいりました」

 シェルビーがそう告げるとアルベルはニヤリと笑うと「全員ここに集合させろ」と命令を下しました。その笑みはほんっとーに黒くて爽やかでした。









 それから数分して団員が全員集合すると、いきなりアルベルは明かりを落としました。まあ、全員がこれは闇鍋だと認識しているので驚きはしません。

 ただ、これがこの世の終わりだというような雰囲気のものも若干名いますが。

「さてと、食材をどんどん入れていけ!間違っても食えないものは入れるなよ」

 闇鍋というとタワシが入っているのがお約束ですが、そんな食料難になっているときにタワシなんて入れるなど(他の食材が)もったいないことはできません。それよりも万が一そのタワシが団長にまわってしまったらと考えると恐ろしいので す。

 かくして食材(モンスターが混じっている)をみんなで入れていきました。湯が最初から沸騰していたのも手伝って、さっさと煮えていきます。

(さっさと食って、妙な味になる前に退散しよう)

 それは団員一同の思いでした。しかし、それより早く闇の中でも白く見えるものが二人の人間の手で入れられました。

 豆腐でしょうか?

 いえいえ、そんな奇特なものは誰も持ってきていません。

 団員の一人が勇気を出してその白いものに箸をつけました。それはさっと湯に溶けたものの、箸にもべったりとくっついてきました。伸びてます。

「餅ーっ!!」

「ああ、それは俺の家の正月の残りだ」

「こっちはチーズかよ!」

「あまっちゃってて困ってたんですよ」

 犯人二人のわびる雰囲気がまったくない返答。しかし怒れません。相手は華のないアーリグリフの華なのです!

「ちなみにノルマ制だ。割り当て分は食ってもらうからな」

 チーズのせいでフォンデュのようになってしまった妙な鍋を囲みながら、漆黒の夜は更けていくのでした。









 そして次の日、カルサア丘陵に来たのはアルベル唯一人でした。今日は風雷とともに丘陵の陣地を増やす任務があるのです。

「小僧、みなはどうしたのじゃ?」

「さあ?俺とマユを除いて全員腹痛らしい」

「………」

 アルベルの答えに風雷の皆様は呆れて物が言えない様子です。

「……何をやったんじゃ……」





 その後、アルベルを団長の座から引き摺り下ろそうという動きが出てくることになりますが、彼はそんなことに動ぜず、 わが道を歩むのでした。特に料理に関しては。









 サークルの会議で上がった話題、普通の鍋をやるはずだったのに男どもが闇鍋の材料を持ってきて鍋がチーズフォンデュになった、から来ています。うっわ、内輪ネタじゃん。その闇鍋の材料を持ってきたのは某W大学の方々だったとか。そして会場はウチの大学だったらしいです。

 闇鍋か~、漆黒だし、アルベル主催でやらせるのも面白いな~ってそれだけでアーリグリフサイドになりました。別にネルさんでも良かったんですよ。「闇」だから。とりあえず姉弟の間で多数決とって決めました(ほう?)



20040119 白水りぃふ

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